アイドルと版権と、二つの「権利」にまつわるポップな構造論

アイドル

YouTubeでアイドルのコンテンツをダラダラ見ていると、アルゴリズムのループに入り込んでいつの間にか沼に沈んでいることがある

最近気になったのは、「イコノイジョイ(=LOVE、≠ME、≒JOY)」や「坂道シリーズ」、「48グループ」など、同じプロデューサー(指原莉乃氏や秋元康氏)の手がけるグループたちが、なぜそれぞれバラバラのレコード会社に所属しているのかという疑問だ

=LOVEはソニー、≠MEはキングレコード、≒JOYはソニー AKB48はユニバーサル、SKE48はエイベックス、STU48はキングレコード

このバラつきの裏には、20世紀のアナログレコード時代から続く、音楽業界の「大人の事情」と「権利の二重構造」という面白い仕組みが隠されている alt text

📊 主要アイドルグループの所属レーベル一覧(2026年現在)

実際に主要なグループがどこに所属しているのか、全体像を整理してみるとこんな感じになる

グループ名 所属レコード会社 (親会社) 所属レーベル 備考・近年の動向
【坂道シリーズ】
乃木坂46 ソニー・ミュージックレーベルズ N46Div. ソニー・ミュージックレーベルズ内の乃木坂46専用レーベル。
櫻坂46 ソニー・ミュージックレーベルズ Sony Records 旧・欅坂46(2020年10月に改名)。
日向坂46 ソニー・ミュージックレーベルズ Sony Records 旧・けやき坂46(2019年2月に改名)。
【48グループ】
AKB48 ユニバーサル ミュージック EMI Records 2023年2月にキングレコード(You, Be Cool!)からユニバーサル ミュージックへ移籍。
SKE48 エイベックス・エンタテインメント avex trax 2011年に日本クラウン(CROWN GOLD)からavex traxへ移籍(2009年は一時ランティスに所属)。2026年4月に運営会社が「ゼスト」から「SKE」へ商号変更。
NMB48 ユニバーサル ミュージック ユニバーサル シグマ 2022年にlaugh out loud records(よしもとミュージック)から移籍。2025年7月より事務所が「N-Rise」に変更。
HKT48 ユニバーサル ミュージック EMI Records デビュー時はユニバーサル シグマ。2015年7月よりEMI Recordsへ移行。2020年4月より「Mercury」運営。
NGT48 ユニバーサル ミュージック EMI Records 2020年6月にアリオラジャパン(ソニー)からEMI Recordsへ移籍。
STU48 キングレコード You, Be Cool! 2017年結成以来、移籍等はなくキングレコードに所属。
【イコノイジョイ】
=LOVE ソニー・ミュージックレーベルズ SACRA MUSIC 指原莉乃プロデュース。代々木アニメーション学院所属。2017年のデビュー時より同レーベル。
≠ME キングレコード KING RECORDS 指原莉乃プロデュース。代々木アニメーション学院所属。2021年のメジャーデビュー時より所属。
≒JOY ソニー・ミュージックレーベルズ SACRA MUSIC 指原莉乃プロデュース。代々木アニメーション学院所属。2024年1月にメジャーデビュー。
【ハロー!プロジェクト】
モーニング娘。'26 アップフロントワークス zetima 西暦に合わせて毎年グループ名を更新(2026年現在は「モーニング娘。'26」)。
アンジュルム アップフロントワークス hachama 旧・スマイレージ。2026年7月22日に通算37枚目となるシングル『BaBaBa Burning Love!/愛が愛のままでいられますように』を同レーベルからリリース予定。
Juice=Juice アップフロントワークス hachama 2026年6月24日に初のEP作品『MORE! MORE! EP』をリリース予定。
BEYOOOOONDS アップフロントワークス zetima 2019年のメジャーデビュー以来、同レーベルに所属。
OCHA NORMA アップフロントワークス zetima 2022年のメジャーデビュー以来、同レーベルに所属。
ロージークロニクル アップフロントワークス zetima ハロー!プロジェクトの最新グループ。2025年3月19日に『へいらっしゃい!~ニッポンで会いましょう~ / ウブとズル』でメジャーデビュー。
つばきファクトリー アップフロントワークス zetima 2017年のメジャーデビュー以来、同レーベルに所属。2026年6月3日に14thシングル『FireWorks / まっぴらだってば!』をリリース。
【その他主要グループ】
FRUITS ZIPPER ASOBI MUSIC (アソビシステム) KAWAII LAB. アソビシステムによるプロジェクトレーベル。CDなどパッケージ製品の販売元(流通)はソニー・ミュージックソリューションズが受託。
超ときめき♡宣伝部 エイベックス・エンタテインメント avex trax 2018年にユニバーサルミュージック(ユニバーサル シグマ)からavexへ移籍。2026年5月20日にシングル「どりーむじゃんぼ!」を発売。
僕が見たかった青空 エイベックス・エンタテインメント avex trax 乃木坂46公式ライバル。2023年の結成よりavex traxに所属。2026年6月3日に8thシングル「FUNKY SUMMER」を発売。

そもそも「レーベル」って何?

本の世界で例えると、ものすごくスッキリ理解できる

  • レコード会社(ソニーやエイベックス) = 講談社や集英社などの「出版社」
  • レーベル(Sony Recordsやavex trax) = 週刊少年マガジンや週刊少年ジャンプなどの「雑誌・レーベル」

つまり、レーベルとはレコード会社という大企業のなかにある「専門の編集部」や「サブブランド」のことだ ターゲットやジャンルに合わせて、「うちはアニメ特化」「うちはアイドル特化」といったカラーを持たせている


グループの「移籍」というミステリー

AKB48がキングレコードからユニバーサルミュージックに移籍した、といったニュースを聞くことがある 野球選手の移籍のように「メンバーが引っ越す」わけではないのに、一体何が起きているのか?

実は、音楽業界における移籍とは**「新曲の出版契約の引っ越し」**にすぎない

たとえば、キングレコード時代に出した過去の名曲(『ヘビーローテーション』など)の録音データの権利は、今でもキングレコードのものだ 移籍したからといって、過去の曲の権利までユニバーサルに引っ越すわけではない

これも漫画家で例えるとわかりやすい 「マガジンで連載していた漫画家が、ジャンプに移籍して新連載を始める」ようなものだ 過去の単行本(キングレコード版)は今でも講談社から売られ続け、新しい連載(ユニバーサル版)は集英社から出る 移籍とは、そういう「これからの新曲を売るパートナーのチェンジ」なのだ


音楽を支える「著作権」と「原盤権」

なぜそんな面倒なことが起きるのかというと、音楽には二つの「けんり(権利)」があるからだ

  1. 著作権(作詞・作曲の権利 / 設計図の権利)
    • 作詞家(秋元康氏など)や作曲家にある権利
    • 誰がどう歌おうが、カバーしようが、この設計図を作った人に印税が入る
  2. 原盤権(録音された音源そのものの権利 / 制作費を出した人の権利)
    • レコーディング費用(数百万〜数千万円のスタジオ代や機材費)を実際に支払った「レコード会社」が持つ権利
    • その「特定のテイクの音」をCDにしたりサブスクで配信したりしてビジネスをする権利

秋元康氏がソニーから「うちでもグループ作ってよ」と頼まれて乃木坂46が生まれたという有名なエピソードも、ソニーという大資本(レコード会社)が「制作費を全部持つので、秋元さんの頭の中にある『ネーム(コンセプト)』をうちのスタジオでレコーディングして、一緒に原盤権ビジネスをやりましょう」と持ちかけたということだ

複数のグループをバラバラのレコード会社に所属させるのも、1社で何個も抱えると制作予算(原盤を作るお金)がパンクするし、社内でプロモーションの食い合いが起きるから、という大人の資金・宣伝分散テクニックなのだ


個人クリエイターとデジタルネイティブ市場の未来

この「20世紀型のエコシステム」は、CDを大量にプレスして全国のCDショップにトラックで運ぶという「物理インフラ」を大手レコード会社が握っていたからこそ成立していた

しかし、現在のデジタルネイティブ市場は全く違う

YouTubeやTuneCoreを使えば、個人クリエイターが自宅のパソコンで曲を作り(著作権)、自分で録音し(原盤権)、直接世界に配信できる つまり、個人が「アーティスト」と「レコード会社」を兼ねられる時代になったのだ

間に入る大資本がないから、何万枚もCDが売れなくても、小さなコミュニティのなかで100%の権利収入を得て生活していける

かつての巨大なインフラ組織が小回り抜群の個人に分解されていく この権利の仕組みを知ると、現代の個人制作がどれほど自由で、可能性に満ちているかがよく見えてくる

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