クイーンズ・ギャンビットを観た——実はブリティッシュな話だった件
Netflixでクイーンズ・ギャンビットを観た。60分×7話くらい。
Netflixを観ようという時に、何かを観ようとして観始める人なんていない。
他に何も取り組みたくないから観る。 それこそが正しい、本来的なシリーズドラマの鑑賞の方法だ。
今回もそのようにして、何の気なしにNetflixをつけてみた。 案の定みたいものなんて特にない。 そんなときサムネイル、キャッチイメージは重要だ。
美人な女性が一枚目のビジュアルイメージに出ていたので、観てみた。
題材は70年代前後の女性チェスプレーヤーの話らしい。 あらすじとしてそれだけ頭に入れて観始めた。
主人公エリザベスが孤児院に入るところから始まる。5〜7歳くらい、小学校低学年。
トーンは明るくない。どちらかというと、暗めな画作りとセリフ、ストーリー。 パロディでもなく、コメディでも、キラキラ系でもなく——リアルタッチ、ナチュラルトーン。 静かな時間を楽しむ系な雰囲気。
もともとNetflix配信ありきの作り方なのかな、2010年代以降のNetflix手法なのかなと。 最初の10分くらいで世界観が提示されて、こちらももうそのマインドが出来上がっていた。
調査してみた① 制作情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制作 | Netflix オリジナルミニシリーズ(2020年) |
| 製作会社 | Flitcraft Ltd(アメリカ)+ Wonderful Films(アメリカ) |
| 脚本・監督 | スコット・フランク(アメリカ人) |
| 製作総指揮 | アラン・スコット(アメリカ人) |
| 撮影地 | ベルリン(ドイツ)がメインロケ地 |
ブリティッシュな要素はほぼない、と思ってた。 アメリカのチェス少女の話なんだから当然か、と。
ところが、エンドロールのあとNetflixオリジナルのインタビュー映像を見ていたら、主演の女性がバキバキのブリティッシュアクセントで喋っていた。
「え、イギリス人だったの?」
調査してみた② 主演アーニャ
アニャ・テイラー=ジョイ(Anya Taylor-Joy)
- ロンドン生まれ、アルゼンチン育ち、ティーンでイギリスに戻る
- ネイティブはブリティッシュイングリッシュ
- 作中ではアメリカ英語に完全に寄せて演じていた
- 2021年ゴールデングローブ賞 主演女優賞受賞
アメリカ人を演じていたのは、イギリス人だった。
さらに掘ると、もっと面白いことがわかった。
調査してみた③ 実在のモデル
ヴェラ・メンチク(Vera Menchik)
- チェコ人の父+イギリス人の母
- イギリスを拠点に活動した女性チェスプレーヤー
- 初代女性世界チェスチャンピオン(1927〜1944年)
- 男性優位の時代に男性トップ棋士たちと互角に渡り合った
- 1944年、ロンドン空襲で死亡
制作はアメリカ。主演はイギリス人。モデルもイギリスで活動した人物。 「アメリカのチェス少女の話」に見えて、ブリティッシュな血が通っていた。
調査してみた④ 薬剤師目線で気になったポイント
作中、孤児院で子どもたちに緑の錠剤が配られるシーンがある。 鎮静剤、トランキライザー的なやつ。主人公エリザベスはそれに依存していく。
作中の薬名は**「Xanzolam(ザンゾラム)」**——架空の薬だ。
時代設定は1950〜60年代。この時代に実際に使われていた鎮静薬:
- バルビツール酸系(フェノバルビタール等)→ 当時の施設でも使用されていた
- 抱水クロラール(クロラール水和物)
- ベンゾジアゼピン系の登場はLibrium(1960年)、Valium(1963年)とほぼ同時代
「Xanzolam」はベンゾ系っぽい命名だが、1950年代の孤児院なら実際はバルビツール系が時代考証として正確。 創作上の薬名にリアルな時代背景が透けて見える、という話。
調査してみた⑤ アーニャのその後
| 作品 | 年 | 備考 |
|---|---|---|
| 『ウィッチ』 | 2015 | ここでブレイク、ホラー系から注目 |
| 『クイーンズ・ギャンビット』 | 2020 | ゴールデングローブ賞受賞 |
| 『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』 | 2021 | ブリティッシュ全開のサイコスリラー |
| 『フュリオサ:MAD MAXサーガ』 | 2024 | 若き日のフュリオサ主演 |
マッドマックスの系列は「ストーリーで感動する」より「映像と世界観を浴びる」映画なので好みが分かれる。 アーニャ目当てで1本選ぶなら**『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』**のほうがキャラの感情に入り込める。
まとめ
クイーンズ・ギャンビットという作品、表面はアメリカのチェス話に見えて、掘ると意外なほどブリティッシュな話だった。
- モデルはイギリスで活動したチェス女王
- 主演はロンドン生まれのイギリス人
- 作中の依存薬は架空名だが時代考証するとバルビツール系が正解
Netflixのサムネに釣られて見始めた作品にここまで発見があるとは思わなかった。 それもまた、シリーズドラマの正しい鑑賞の仕方なのかもしれない。